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BPO会社の営業チャネルと案件獲得力をM&A価値に変える売却準備

2026 7/10
BPO業界のM&A
2026年7月10日
BPO会社のM&A・事業承継に関する相談風景
BPO会社のM&A・事業承継に関する相談風景
目次

BPO会社の営業力は、売上高そのものではなく「次の売上を作る仕組み」として見られる

BPO会社のM&Aでは、直近期の売上高や営業利益だけでなく、その売上がどのように獲得され、翌期以降もどの程度再現できるのかが重視されます。コールセンター、バックオフィス代行、ITヘルプデスク、ECカスタマーサポート、RPO、給与計算、データ入力などのBPO事業は、顧客から見れば自社業務の一部を外部に預ける取引です。そのため一度受注すると継続しやすい面がある一方で、受注までの検討期間は長く、既存取引先からの紹介、業界内の信用、提案資料、運用責任者の説明力、過去実績の見せ方によって案件化の確度が大きく変わります。譲受企業は、過去の売上が偶然積み上がったものなのか、会社として案件を継続的に創出できる仕組みを持っているのかを確認します。

譲渡企業オーナーから見ると、営業は「自分が長年積み上げてきた人脈」として認識されていることが少なくありません。創業者が主要顧客の経営層と直接つながり、紹介先に自ら訪問し、見積条件をその場で調整し、受注後の初期運用まで面倒を見る会社では、短期的な売上は安定して見えても、譲受企業からはオーナー依存の営業リスクとして評価されます。反対に、問い合わせ獲得、初回ヒアリング、要件整理、提案、見積、契約、立ち上げ、更新提案までが一定の型になっている会社は、買収後も営業活動を引き継ぎやすく、譲渡価値を説明しやすくなります。

M&Aで営業チャネルを説明する目的は、会社を大きく見せることではありません。どの経路からどのような顧客が来て、どの業務で受注し、どれくらいの確率で契約に至り、どの期間で立ち上がり、どの理由で継続または解約するのかを、譲受企業が検証できる状態にすることです。特にBPOは、契約書上の売上だけでは将来性を読み切れません。業務範囲の追加、席数や処理件数の増減、委託範囲の拡張、別部署への横展開、RFPへの参加機会など、営業活動と運用品質が一体となって成長機会を作ります。

本稿では、BPO会社のオーナーが売却を検討する際に、営業チャネル、案件獲得プロセス、受注再現性、パイプライン、継続率、解約理由、営業管理資料をどのように整理すべきかを解説します。なお、本稿は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別案件の法務、税務、労務、会計、情報セキュリティまたはM&A条件に関する助言ではありません。実際の売却準備や条件交渉では、弁護士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談しながら進めてください。

譲受企業は営業チャネルを「人脈」「広告」「既存深耕」「入札・RFP」に分けて確認する

譲受企業が最初に見たいのは、売上の入口です。BPO会社の営業チャネルは、既存顧客からの追加受注、既存顧客からの紹介、金融機関や士業からの紹介、業界団体や展示会経由、Web問い合わせ、広告、代理店、グループ会社からの送客、入札、RFP、親会社または特定企業からの継続発注などに分けられます。どのチャネルが悪いという話ではありません。重要なのは、チャネルごとの件数、受注率、粗利率、契約期間、解約率、オーナー関与度が整理されていることです。たとえば紹介案件の受注率が高くても、紹介元が創業者個人との関係だけで成り立っている場合、譲受企業は引継ぎ後の再現性を慎重に見ます。

一方、Web問い合わせや広告経由の案件が多い会社でも、問い合わせ内容が小口かつ短期案件に偏っていれば、必ずしも高く評価されるとは限りません。BPOの売却では、件数の多さだけでなく、案件の質が問われます。月額固定に近い契約なのか、従量課金で変動が大きいのか、季節性が強いのか、複数年契約に移行しやすいのか、運用開始後に単価改定や追加業務を提案できるのかによって、将来キャッシュフローの見方は変わります。チャネル別に案件の特徴を説明できれば、譲受企業は売上構成をより精密に理解できます。

入札やRFPに参加している会社では、参加件数、提案通過率、最終選考率、受注率、不採用理由、次回更新時期の管理が重要です。RFP案件は大型化しやすい反面、価格競争が強く、提案負担も大きくなります。譲受企業は、RFPで勝てる会社なのか、単に安値で受注している会社なのかを見極めようとします。提案体制、運用設計力、移行計画、品質管理、情報セキュリティ、労務管理、BCP、レポーティングなどが営業資料に反映されていれば、単価の根拠を説明しやすくなります。

売却準備では、過去三年程度を目安にチャネル別の新規案件一覧を作るとよいでしょう。項目としては、初回接点日、チャネル、顧客業種、対象業務、見込月額、見込粗利、提案日、見積日、契約日、失注日、失注理由、受注後の立ち上げ期間、現在の契約状況、担当者、オーナー関与の有無を整理します。完全なCRMがなくても、請求書、見積書、メール、営業会議メモから復元できます。重要なのは、譲受企業が「この会社は営業を管理している」と理解できる粒度に近づけることです。

紹介依存は強みでもあり、引継ぎ設計を誤ると譲渡後の弱点にもなる

BPO会社では、紹介による受注が大きな比率を占めることがあります。紹介は信用を前提としたチャネルであり、広告費をかけずに良質な案件を獲得できる点で大きな強みです。特に業務委託先の選定では、顧客が情報漏えい、品質低下、現場混乱を強く恐れるため、既存顧客や士業、金融機関、ITベンダー、同業周辺企業からの紹介は大きな意味を持ちます。譲受企業も、紹介元が継続的に案件を持ち込んでくれる構造であれば、営業資産として評価します。

ただし、紹介依存がすべてプラスになるわけではありません。紹介元が数社に限られ、しかもその関係がオーナー個人の信頼だけで成り立っている場合、譲受企業は買収後に紹介が止まる可能性を考えます。紹介元との契約書がないこと自体は一般的ですが、紹介の背景、過去の紹介件数、紹介元との定例接点、紹介先の属性、紹介後の成約率、紹介手数料の有無、競合紹介の有無を説明できないと、強みが曖昧な話に見えてしまいます。譲渡企業は、紹介の実績を属人的な思い出ではなく、営業チャネルの履歴として整理する必要があります。

引継ぎ設計も重要です。譲渡後に紹介元へどのタイミングで誰が挨拶するのか、オーナーがどの期間同席するのか、譲受企業の営業責任者や事業責任者をどのように紹介するのか、既存の紹介フローを変えるのか維持するのかを事前に考えておくべきです。紹介元にとっては、譲渡企業会社が買収されたことよりも、紹介した顧客に迷惑がかからないか、自分の信用が傷つかないかが重要です。したがって、譲受企業に引き継ぐべき情報は、紹介元の名前だけではなく、紹介元が何を重視しているかという関係性の文脈です。

オーナー依存の観点は、過去記事のBPO会社のオーナー依存を減らして出口戦略を描く売却準備とも関係します。営業チャネルにおいても、オーナーが完全に抜けることだけを目標にする必要はありません。むしろ、一定期間はオーナーの信用を活用しながら、紹介元と譲受企業の関係を段階的に移す設計が現実的です。売却準備の段階でこの設計を示せれば、譲受企業は譲渡後の売上維持を見通しやすくなります。

既存顧客の深耕営業は、BPO会社の将来価値を示す重要な材料になる

BPO会社の成長は、新規顧客の獲得だけで決まるわけではありません。既存顧客に対して、対象業務の範囲を広げる、繁忙期対応を受ける、別部署の業務を受託する、レポート作成や管理業務を追加する、一次対応から二次対応へ広げる、紙業務からデータ化まで担うなど、深耕余地がある会社は譲受企業にとって魅力的です。なぜなら、既存顧客の業務理解があるため、新規開拓よりも営業効率が高く、受注後の立ち上げリスクも相対的に低いからです。

売却準備では、顧客別に現在の受託業務だけでなく、未受託業務、過去に提案した業務、顧客側で内製している業務、競合が担当している業務、次回契約更新時に提案できる業務を整理します。たとえばECカスタマーサポートを受けている顧客に対して、返品処理、レビュー返信、FAQ更新、チャットボット運用、受注処理、物流連携まで広げられるのか。ITヘルプデスク顧客に対して、アカウント管理、端末キッティング、ナレッジ整備、定例レポートまで広げられるのか。こうした深耕候補は、単なる希望ではなく、顧客との会話履歴や運用上の課題と結び付けて説明する必要があります。

譲受企業は、深耕余地が実現可能かどうかを見ます。譲渡企業が「まだ伸びます」と言うだけでは不十分です。既存顧客の契約更新月、意思決定者、予算策定時期、現場課題、競合状況、過去提案の反応、現在の満足度、SLA達成状況、クレーム履歴が整理されていれば、譲受企業は追加受注の確度を判断しやすくなります。反対に、既存顧客との関係が請求書発行だけで止まっており、定例会や改善提案がない場合、深耕余地は譲受企業にとって不確実な上振れ要素にとどまります。

既存顧客の維持と契約更新については、BPO会社の契約継続率・チャーンリスクをM&A価値に変える売却準備でも重要な論点です。営業チャネルの整理では、新規案件だけでなく、既存顧客の継続、追加、縮小、解約の履歴を一体で見る必要があります。BPO会社の営業力は、受注する力だけではなく、顧客の変化を捉えて委託範囲を適切に広げる力でもあるからです。

パイプライン管理は、事業計画とアーンアウト交渉の説得力を左右する

M&Aの交渉では、譲渡企業が将来の成長性を説明する場面が必ずあります。その際に重要になるのが営業パイプラインです。パイプラインとは、問い合わせ、初回面談、要件定義、見積、提案、稟議、契約準備、立ち上げ待ちといった案件の進捗を、金額と確度と時期で管理する考え方です。BPO会社の場合、案件化から売上計上まで数か月かかることがあり、受注後も採用、教育、システム設定、マニュアル整備、顧客側承認などの立ち上げ工程があります。したがって、単に「商談があります」という説明では、譲受企業は事業計画に織り込みにくいのです。

売却準備では、案件ごとに見込月額、見込粗利、初期費用、立ち上げ開始予定、売上計上開始月、契約期間、必要人員、必要投資、受注確度、失注時の理由を管理します。受注確度は感覚で高・中・低と置くだけでなく、顧客が予算化済みか、現行委託先の契約満了が近いか、RFPの最終候補に残っているか、業務要件が確定しているか、価格合意が済んでいるかなど、客観的な基準を持つと説明しやすくなります。譲受企業は、譲渡企業の予測がどれくらい保守的か、どれくらい楽観的かを見ています。

パイプラインは、アーンアウトや業績連動条件にも影響します。譲渡企業が高い将来成長を主張する一方で、譲受企業が現在価値としてすべてを価格に反映することを避けたい場合、一定期間の売上や利益達成に応じた追加対価が議論されることがあります。そのとき、案件の確度、計上時期、必要コストが曖昧だと、目標設定が揉めやすくなります。逆に、パイプラインの根拠が明確であれば、譲渡企業は過度に低い評価を避けやすく、譲受企業も条件設計をしやすくなります。

アーンアウトや事業計画の考え方は、BPO会社のアーンアウトと事業計画を売却交渉でどう設計するかと深く関係します。営業パイプラインは、事業計画の数字を支える現場資料です。将来売上を説明するなら、案件名を匿名化した一覧、進捗ステージ、見込金額、根拠資料、直近の顧客反応を準備しておくと、譲受企業との対話が具体的になります。

受注率だけでなく、失注理由と撤退基準が整理されている会社は信頼されやすい

営業力を説明するとき、譲渡企業はどうしても受注実績を強調したくなります。しかし、譲受企業が同じくらい重視するのが失注理由です。なぜ受注できなかったのか、価格が合わなかったのか、顧客の予算がなくなったのか、競合に負けたのか、提案範囲が過大だったのか、情報セキュリティ要件を満たせなかったのか、必要人員を確保できなかったのか。失注理由が整理されている会社は、自社の強みと弱みを把握していると見られます。反対に、失注案件を記録していない会社は、営業活動の改善余地が見えにくくなります。

BPO会社では、あえて受けない判断も重要です。低単価で過度な品質責任を求められる案件、短期間で大量採用が必要な案件、顧客側の業務要件が固まっていない案件、個人情報や機密情報の取り扱いが不明確な案件、現場への過度な負荷が見込まれる案件を無理に受注すると、利益率や従業員定着、品質評価に悪影響が出ます。譲受企業は、売上を追うだけの会社なのか、採算とリスクを見て案件を選別できる会社なのかを確認します。撤退基準がある会社は、将来の利益品質を説明しやすくなります。

失注理由の整理は、価格交渉にも役立ちます。競合より高いと言われて失注した案件でも、なぜ高かったのかを説明できれば、単なる価格弱者とは限りません。情報セキュリティ、教育、管理者配置、品質保証、夜間対応、レポーティング、BCP、二重チェックなどを含めた価格であれば、品質を理解する顧客には受け入れられる可能性があります。譲受企業は、価格を下げなければ取れない会社よりも、価値を説明して適正単価を守れる会社を評価しやすいものです。

売却準備としては、過去の主要失注案件について、顧客業種、業務内容、見込金額、提案価格、競合、失注理由、再提案可能性、学びを一覧化します。小規模案件まですべて完璧に整理する必要はありませんが、大型案件や戦略的に重要な案件は記録がある方が望ましいです。営業会議で失注理由を振り返っている会社であれば、その議事録や改善施策も譲受企業への説明材料になります。

営業資料と提案書は、BPO会社の運用品質を伝える重要な無形資産になる

BPO会社の営業資料は、単なる会社紹介ではありません。譲受企業から見ると、その会社が顧客に何を約束し、どのように運用を設計し、どの品質指標で管理し、どのリスクを事前に説明しているかを示す資料です。提案書、見積書、業務設計書、移行計画、体制図、FAQ、SLA案、セキュリティ説明資料、教育計画、改善レポートの雛形などは、営業と運用をつなぐ無形資産として見られます。属人的な口頭説明に頼らず、資料で品質を伝えられる会社は、買収後も営業活動を継続しやすくなります。

特にBPOでは、営業段階で過度な約束をすると、受注後に現場が苦しみます。譲受企業は、提案書に記載されたサービス範囲、応答時間、処理件数、品質保証、報告頻度、エスカレーション、情報管理、再委託、繁忙期対応が、実際の契約書や運用と整合しているかを確認します。営業資料が実態より良く見えすぎている場合、将来のクレームや採算悪化のリスクになります。譲渡企業は、営業資料と現場運用の整合性を確認してから開示するべきです。

営業資料の標準化は、譲受企業のPMIにも影響します。買収後、譲受企業が自社グループの営業部隊や既存顧客に対象会社のサービスを紹介する場合、標準化された提案資料があると展開しやすくなります。逆に、提案書が毎回ゼロから作られ、特定の担当者しか説明できない状態では、譲受企業はシナジーを見込みにくくなります。業務別の提案テンプレート、事例集、導入スケジュール、価格表の考え方、FAQがある会社は、営業移管の難易度が下がります。

品質指標やSLAとの接続については、BPO会社のSLA・KPI・品質保証をM&A価値に変える売却準備も参考になります。営業資料は、売るための飾りではなく、受注後に守れる約束を顧客へ提示するためのものです。M&Aでは、譲受企業がその約束を引き継ぐことになるため、営業資料の精度は譲渡後のリスク評価に直結します。

顧客別の意思決定構造と更新時期を把握しているかが、営業引継ぎの成否を分ける

BPO契約の営業では、誰が意思決定者なのかを正しく把握することが重要です。現場担当者が満足していても、予算権限は別部署にあるかもしれません。情報システム部門、法務部門、購買部門、経営企画部門、事業部長、子会社管理部門など、BPO委託の意思決定には複数の関係者が関与します。譲受企業は、対象会社が顧客組織のどこまで関係を持っているのか、更新や追加提案の際に誰へ説明すべきかを確認します。

売却準備では、主要顧客ごとに意思決定マップを作ると有効です。日常窓口、現場責任者、契約責任者、予算責任者、役員承認者、情報セキュリティ確認者、法務担当者を整理し、それぞれとの接点頻度を記録します。これは顧客情報として機密性が高いため、開示タイミングや匿名化には注意が必要ですが、最終的なデューデリジェンスや引継ぎでは重要な情報になります。譲受企業は、譲渡企業が顧客の意思決定構造を理解しているかどうかによって、継続率の見方を変えます。

更新時期の管理も重要です。BPO契約は自動更新になっていることもありますが、顧客内部では年度予算、見直し会議、RFP、監査、品質評価、ベンダー評価のタイミングがあります。契約書上の更新日だけを見ていると、実際の交渉タイミングを逃すことがあります。売却準備では、契約更新日、解約通知期限、価格改定可能時期、次回提案時期、顧客内予算策定月、過去の更新交渉履歴を整理しておくべきです。

顧客集中リスクとの関係では、BPO会社の顧客集中リスクをM&Aでどう説明するかの視点も重要です。大口顧客があること自体は必ずしも悪いことではありませんが、その顧客の意思決定者、更新時期、満足度、代替ベンダー状況、解約通知期限を把握していないと、譲受企業は不安を持ちます。営業引継ぎは、名刺交換だけではなく、顧客内の意思決定の流れを引き継ぐ作業です。

営業管理資料は、完璧なCRMよりも検証可能な履歴と数字が大切である

売却準備を始めると、CRMを導入していないことを不安に感じるオーナーもいます。もちろん、案件管理システムが整備されていれば望ましいですが、M&Aで重要なのはツールの有無そのものではありません。譲受企業が検証できる履歴と数字があるかです。Excel管理でも、過去案件、チャネル、進捗、受注率、失注理由、顧客別売上、更新時期、担当者が整理されていれば、十分に説明材料になります。逆に、CRMを導入していても入力が不完全で、実態を反映していなければ評価にはつながりません。

まず整えるべき資料は、顧客別売上一覧、契約一覧、案件パイプライン、チャネル別新規受注一覧、失注一覧、更新予定表、主要顧客の関係者一覧、提案資料一覧です。これらを会計数値、請求書、契約書、見積書と突合できる状態にすることが重要です。営業資料だけが独立していて、実際の売上や契約と一致しない場合、譲受企業は数字の信頼性を疑います。BPO会社では、月額固定、従量課金、スポット、初期費用、追加作業費が混在しやすいため、営業管理と請求管理の接続は特に重要です。

営業管理資料を作る際には、守秘にも配慮が必要です。売却検討の初期段階では、顧客名を匿名化し、業種、売上規模、契約年数、業務内容、粗利率、更新時期などを開示する方法が一般的です。譲受企業が絞られ、秘密保持契約や基本条件が整った段階で、必要に応じて実名情報を開示します。営業資料には顧客の機密情報が含まれることがあるため、資料の作成段階からマスキング方針を決めておくと、開示時の混乱を避けられます。

営業管理資料は、データルームの一部として整理されます。関連する準備はBPO会社の売却に向けたデータルーム整備の考え方にも通じます。営業資料をデータルームに入れる際は、単にファイルを並べるだけでなく、譲受企業がどの資料を見れば営業チャネル、案件パイプライン、顧客継続、価格改定余地を理解できるのかが分かる構成にすることが望ましいです。

譲受企業のタイプによって、営業チャネルの評価ポイントは変わる

営業チャネルの説明では、譲受企業のタイプも意識する必要があります。同業のBPO会社が譲受企業であれば、対象会社の顧客基盤、対応業務、単価水準、採用地域、運用管理者、既存サービスとの重複や補完関係を見ます。特に、譲受企業がすでにコールセンターを持っている場合は、バックオフィス代行やECサポートを組み合わせられるか、逆に譲受企業がバックオフィス中心であれば、電話・チャット対応を追加できるかが論点になります。営業チャネルは、譲受企業の既存顧客へ横展開できるかというシナジーの材料にもなります。

事業会社やIT企業が譲受企業になる場合は、BPOサービスを自社顧客向けの付加価値として組み込めるかが見られます。たとえばSaaS企業、EC支援会社、人材会社、システム開発会社、物流会社、医療・介護関連サービス会社などは、既存顧客に対して運用代行やカスタマーサポートを提案できる可能性があります。この場合、譲渡企業会社の営業資料が業務別に整理されており、譲受企業の営業担当が短期間で説明できる状態になっているほど、買収後の展開可能性を示しやすくなります。

投資会社や事業承継目的の譲受企業では、営業チャネルの安定性と管理可能性が特に重視されます。派手な成長余地よりも、既存顧客が継続し、更新時期が管理され、主要顧客との関係が複数名で維持され、パイプラインが過度に楽観的でないことが安心材料になります。譲渡企業が譲受企業ごとに説明を変えるという意味ではなく、同じ営業資料でも、同業譲受企業には業務補完性を、事業会社には顧客基盤への展開可能性を、投資会社には再現性と管理資料の整備度を中心に説明すると、相手の検討軸に合いやすくなります。

ただし、譲受企業に合わせて将来性を過度に強調することは避けるべきです。実現していないクロスセル、未確認の大型案件、顧客の内諾がない追加受注を、確度の高い売上のように説明すると、デューデリジェンスや最終契約交渉で信頼を失います。売却準備では、既存実績、合理的に見込める案件、譲受企業とのシナジーがあって初めて生まれる可能性を分けて説明することが大切です。この区分が明確であれば、営業チャネルは誇張ではなく、譲受企業が検討できる成長仮説として伝わります。

営業力を譲渡価値に変えるには、売却前から運用責任者と営業責任者を巻き込む

BPO会社の営業は、営業担当だけで完結しません。受注前の要件整理、運用設計、見積前提、必要人員、教育期間、品質管理、顧客報告、エスカレーション設計は、運用責任者の関与なしに正確には作れません。譲受企業は、営業と運用が分断されている会社よりも、提案段階から現場実行可能性を確認している会社を評価します。売却準備では、営業資料の整理をオーナーや経理だけで行うのではなく、運用責任者、営業責任者、管理部門を巻き込むことが重要です。

特に中小規模のBPO会社では、営業責任者と運用責任者が同一人物であったり、オーナーが両方を兼ねていたりすることがあります。その場合でも、譲受企業に対して、誰が顧客要件を確認し、誰が見積前提を作り、誰が立ち上げ可否を判断し、誰が契約後の改善提案を行っているのかを明確にする必要があります。役職名よりも、実際の役割分担が重要です。役割が見える化されていれば、譲受企業は譲渡後の体制移行を設計しやすくなります。

営業力を譲渡価値に変えるためには、売却直前に資料を作るだけでは足りません。少なくとも数か月前から、案件会議の記録、失注理由、顧客別更新予定、追加提案履歴、パイプラインの確度更新を残しておくとよいでしょう。譲受企業は、提出された資料が直前に作られたものか、日常的に使われている管理資料かを見ています。日常運用に根差した資料であれば、譲渡後も使える可能性が高く、PMIの負担も下がります。

最終的に、BPO会社の営業チャネルと案件獲得力は、単なる売上拡大の話ではなく、譲受企業が安心して事業を引き継げるかという論点です。顧客はどこから来るのか、なぜ選ばれるのか、誰が提案できるのか、どの案件を受けないのか、どの顧客に追加余地があるのか、どの数字が事業計画を支えているのか。これらを説明できる会社は、譲受企業から見て将来キャッシュフローの解像度が高い会社です。売却を考え始めた段階で、営業の棚卸しを財務資料や契約書と同じ重要度で進めることが、納得感のあるM&Aにつながります。

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この記事を書いた人

株式会社M&A Do 代表取締役 濱田啓揮のアバター 株式会社M&A Do 代表取締役 濱田啓揮

東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後株式会社M&A Doを立ち上げ。工事業のM&Aを過去多数支援。

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設立年月日
2021年4月2日
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資本金
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BPO M&A総合センター

BPO・アウトソーシング会社の事業承継とM&Aを、現場理解から支援します。

BPO M&A総合センターは、コールセンター、バックオフィスBPO、経理・給与計算、ITヘルプデスク、常駐・業務請負、RPA・AI運用代行など、契約・人員・SLA・個人情報の論点が絡む領域を前提に相談を整理します。

譲渡企業様の手数料は0円成功報酬まで無料
秘密保持重視実名開示前にNDA
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