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BPO会社売却の契約承継とチェンジオブコントロール条項|顧客離脱を防ぐ実務

2026 7/11
BPO業界のM&A
2026年7月11日
BPO会社の契約承継とチェンジオブコントロール条項を確認する経営者とM&A担当者の会議イメージ
目次

BPO会社のM&Aでは「売上がある」だけでなく「その契約を引き継げるか」が問われる

BPO会社の企業価値は、顧客との継続契約によって支えられています。コールセンター、バックオフィス代行、給与計算、採用代行、ITヘルプデスク、ECカスタマーサポートなど、業務の種類は違っても、譲受企業が取得したいのは単なる過去の売上ではありません。買収後も顧客が離れず、同じ品質と採算でサービスを続けられる権利、組織、運用基盤です。そのため、財務諸表に計上された売上が良好でも、契約を承継できない、株主変更を理由に解除される、顧客の事前同意が必要である、といった問題が見つかると、評価額や取引条件は大きく変わります。

特に注意すべきなのが、チェンジオブコントロール条項です。これは一般に、株主や支配権の変更、合併、会社分割、事業譲渡などが生じた場合に、相手方への通知、事前承諾、契約解除などを定める条項を指します。名称が明記されず、「経営主体の変更」「実質的支配者の変更」「重要な組織再編」といった表現で置かれている場合もあります。また、事業譲渡では契約上の地位の移転に個別同意が必要になることが多く、株式譲渡なら常に問題がないとは限りません。取引スキームと契約文言の組み合わせを見なければ、実際の承継可能性は判断できないのです。

譲渡企業オーナーにとって契約棚卸しは、法務担当者だけに任せる形式作業ではありません。どの顧客にいつ、誰が、どこまで説明するかという事業継続計画そのものです。本稿では、BPO会社の売却を検討する経営者に向けて、契約承継、顧客同意、解除権、再委託、個人情報、SLA、料金改定、クロージング条件、PMIまでを一つの流れとして解説します。なお、本稿は一般的な情報提供を目的とするもので、個別案件に関する法務、税務、会計、労務その他の専門的助言ではありません。実際の契約解釈や取引設計は、弁護士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、M&Aアドバイザーなどの専門家にご相談ください。

株式譲渡と事業譲渡では、契約承継の考え方が根本から異なる

株式譲渡では会社という契約当事者自体は変わらず、その会社の株主が変わります。このため、契約上の地位は原則として会社に残ります。しかし、契約に支配権変更時の通知義務、事前承諾義務、解除権が置かれていれば、株式譲渡でも対応が必要です。主要顧客が同意しない場合、法的には契約が直ちに消滅しなくても、譲受企業は顧客離脱リスクを価格に反映します。大口顧客との関係がオーナー個人に依存している会社では、条項の有無にかかわらず、株主変更後の継続意思が重要な確認項目となります。

事業譲渡では、対象事業に含まれる資産、負債、契約、従業員などを個別に移転します。顧客契約を譲受企業へ移すには、契約相手の承諾が必要になるのが通常です。顧客数が数社なら個別交渉もできますが、数百社の中小顧客を抱える給与計算代行やEC支援会社では、同意取得の件数と期間が取引実行の現実性を左右します。オンライン規約で契約している場合も、規約の変更手続、通知方法、顧客の解約権、データ移管への同意を確認しなければなりません。

会社分割や合併では包括承継が基本となる一方、契約上の禁止条項、許認可、労働関係、個人情報の取扱い、債権者保護手続など別の論点が生じます。税務上の取扱いや簿外債務の切り分けもスキームによって異なります。したがって「同意を取りたくないから株式譲渡」「負債を残したいから事業譲渡」と単純に決めるのは危険です。主要契約の文言、顧客数、顧客集中度、許認可、従業員構成、税務、譲受企業の投資方針を並べ、実行可能性と企業価値の双方から取引スキームを比較する必要があります。

最初に作るべき契約台帳は、契約名ではなく「経済条件と承継条件」を一覧化する

契約棚卸しの第一歩は、顧客別の契約台帳を作ることです。台帳には顧客名、対象業務、契約開始日、契約期間、自動更新の有無、更新日、月額固定料金、従量料金、最低利用額、直近売上、粗利、支払条件、解約予告期間、中途解約金、損害賠償上限を記載します。さらに、チェンジオブコントロール条項、契約上の地位移転禁止、通知義務、事前承諾、再委託制限、個人情報、監査権、セキュリティ要件、SLA、価格改定条項も列として持たせます。契約書が複数ある場合は、基本契約、個別契約、発注書、仕様書、覚書、変更合意、セキュリティチェックシートの優先順位も整理します。

BPO契約では、署名済みの基本契約だけを読んでも実態を把握できないことがあります。業務範囲は提案書やメールで拡張され、料金は請求書ベースで改定され、SLAは月次会議の議事録で事実上変更されている場合があります。現場が善意で引き受けた無償作業が積み上がり、契約上の採算と実際の採算が一致しないことも珍しくありません。譲受企業は契約の権利だけでなく、現実に負っている義務を見ます。台帳には契約文言と実運用の差異、口頭合意、未締結の変更、顧客からの是正要求も記録することが重要です。

全契約を同じ深さで確認すると時間が足りなくなるため、優先順位を設定します。売上上位顧客、粗利上位顧客、解約予告期間が短い顧客、赤字顧客、個人情報を大量に扱う顧客、再委託が多い顧客、オーナー依存が強い顧客、直近で苦情や障害があった顧客を高リスク群とします。契約台帳の目的は書類を揃えたことを示すことではなく、企業価値に影響する論点を早期に特定することです。契約管理と顧客継続率の関係については、BPO会社の契約更新・顧客離脱リスクをM&A価値に変える売却準備も参考になります。

チェンジオブコントロール条項は「有無」だけでなく、発動条件と効果を読む

条項を見つけたら、まず発動条件を分解します。議決権の過半数が移る場合だけか、一定割合以上の株式移動を含むか、親会社の変更や間接保有の変更も対象か、合併、会社分割、事業譲渡、重要資産の譲渡まで含むかを確認します。複数段階の組織再編や譲受企業SPCを使う取引では、直接の株主変更だけを見ても不十分です。「実質的支配」「経営に重大な影響」といった抽象語がある場合、想定取引が含まれるかを専門家と慎重に検討する必要があります。

次に、条項が求める手続と期限を読みます。事前の書面承諾なのか、事後通知で足りるのか、何日前までの通知が必要か、承諾を不合理に拒絶できない旨があるか、相手方が一定期間返答しない場合に承諾とみなされるかを確認します。通知先が契約書上の担当部署に限定されていることもあります。日常の営業窓口へ口頭で説明しても、契約上の承諾にならない可能性があります。反対に、早すぎる正式通知は秘密保持や従業員動揺の問題を生むため、取引日程と情報開示計画の調整が必要です。

最後に、違反時の効果を確認します。即時解除、期限の利益喪失、損害賠償、サービス停止、価格見直し、監査実施など、効果は契約ごとに異なります。解除権があっても顧客が必ず解除するとは限りませんが、譲受企業は「解除されないだろう」という期待だけでは投資判断できません。重要顧客の売上が失われた場合の利益影響、固定費吸収、従業員配置、拠点稼働率まで感応度分析を行います。譲渡企業は条項の一覧に加え、顧客関係、切替コスト、代替ベンダー、直近の満足度、更新履歴を用いて継続可能性を説明する必要があります。

顧客同意の取り方は、秘密保持と事業継続の両立から逆算する

M&Aの初期段階で顧客へ売却検討を伝えることは通常できません。交渉が成立しなければ、不要な不安や解約を招くからです。一方、最終契約の締結後に初めて主要顧客へ説明し、同意が得られなければクロージングできない設計も危険です。そこで、顧客を重要度と同意必要性で分類し、いつ誰が接触するかを段階化します。たとえば、最重要顧客の同意取得をクロージング前提条件とし、中位顧客は署名後クロージング前に通知し、小口顧客はクロージング後に一斉案内するなど、契約と関係性に応じた計画を作ります。

顧客説明では「会社を売る」という譲渡企業側の事情より、顧客が受ける便益と守られる条件を中心にします。サービス提供法人、担当チーム、拠点、料金、SLA、セキュリティ、個人情報の取扱い、再委託先、障害時の連絡先がどうなるかを明確にし、変更がない点と変更する点を分けます。譲受企業の資本力、採用力、システム投資、BCP、専門人材などがサービス改善につながるなら、具体的に説明します。ただし、未確定の機能追加や値下げを約束して同意を得ると、クロージング後の負担になります。

誰が説明するかも重要です。オーナーだけが話すと、退任後の不安が残ります。譲受企業だけが話すと、既存関係を軽視しているように見えることがあります。オーナー、現場責任者、譲受企業責任者が役割を分担し、移行期間、ガバナンス、エスカレーションを一つのストーリーとして伝えるのが望ましい形です。顧客から追加条件を求められた場合は、その場で即答せず、誰が経済負担を負うか、他顧客との整合性、最終契約への影響を確認してから回答します。

再委託・個人情報・情報セキュリティは、契約承継と同時に確認する

BPO事業では、クラウドサービス、派遣会社、在宅オペレーター、入力センター、配送会社、システム保守会社など、多くの外部資源を利用します。顧客契約に再委託の事前承諾、再委託先の限定、国外移転の禁止、監督義務がある場合、買収後の統合方針が条項に抵触しないかを確認します。譲受企業グループの共通センターへ業務を移す計画があっても、顧客同意なしに実行できない場合があります。シナジー計画は、契約上実行可能であることを確認して初めて価値になります。

個人情報を扱う契約では、取扱目的、データ項目、保存場所、アクセス権限、削除期限、事故報告、監査、再委託、契約終了時の返却・消去を確認します。株式譲渡で法人が同じでも、譲受企業グループからのアクセスやシステム統合が新たな提供・共同利用・再委託に当たる可能性があります。従業員情報、給与情報、応募者情報、健康情報、購買履歴など、情報の性質によって顧客の懸念は異なります。BPO会社の情報セキュリティ・個人情報管理をM&A価値に変える売却準備で整理した管理資料も、同意取得の説明材料になります。

セキュリティチェックシートや委託先監査への回答が、実態と一致しているかも見直します。認証取得済みと回答しているのに対象拠点が限定されている、ログ保存期間が契約条件を満たさない、私物端末の利用が残るなどの差異は、M&Aを契機に顕在化します。問題を隠すより、影響範囲、暫定措置、恒久対応、完了期限、責任者を示す方が譲受企業の信頼を得られます。顧客への説明内容と譲受企業への開示内容を一致させることが、後日の補償請求や信用低下を防ぎます。

SLA・損害賠償・監査権は、買収後の収益性を左右する

契約が承継できても、義務が重すぎれば企業価値は守れません。応答率、処理時間、正確性、納期、稼働率、一次解決率などのSLAと、未達時のサービスクレジット、違約金、返金、解除権を顧客別に集計します。契約書上のSLAだけでなく、実績値、未達回数、顧客への報告、免責理由、改善計画を揃えます。SLA未達が慢性化しているのにペナルティが請求されていない場合、買収後に顧客が過去分を主張する可能性や、更新交渉で条件変更を求める可能性を検討します。

損害賠償条項では、上限が月額料金、年額料金、直近一定期間の支払額など何を基準にするか、秘密保持、個人情報、知的財産、故意・重過失が上限の例外かを確認します。無制限責任が残っている契約は、売上規模が小さくてもリスクが大きい場合があります。サイバー保険、賠償責任保険、保証契約の対象範囲と、支配権変更時の扱いも合わせて確認します。譲受企業は最大損失だけでなく、管理手続が機能しているかを評価します。

顧客の監査権や立入検査権も見落とせません。買収発表後に顧客が臨時監査を実施することはあり得ます。契約台帳、アクセスログ、教育記録、再委託先一覧、事故対応記録を事前に整備しておけば、監査が顧客離脱の引き金になるのを防げます。品質管理の詳細は、BPO会社のSLA・KPI・品質保証をM&A価値に変える売却準備もご参照ください。契約条件と運用証跡が結び付いている会社は、譲受企業が承継後のリスクを見積もりやすくなります。

契約の不備は、値下げだけでなくアーンアウトや補償条項にも反映される

主要顧客の同意が未取得の場合、譲受企業は複数の方法でリスクを取引条件へ反映します。想定離脱分を事業計画から控除して価格を下げる、顧客継続を条件に代金の一部を後払いにする、一定期間の売上や利益に連動するアーンアウトを設定する、エスクローや留保金を置く、同意取得をクロージング前提条件にするなどです。どの方法が妥当かは、顧客集中度、解約可能性、契約期間、顧客切替コスト、オーナーの関与期間によって異なります。

表明保証では、契約の有効性、重大な違反の不存在、解除通知の不存在、必要な承諾の取得、開示資料の正確性などが対象になります。譲渡企業が把握していた苦情、料金返還要求、未締結の追加作業、口頭での解約意向を開示しないまま契約すると、クロージング後の補償請求につながり得ます。開示は取引を弱くする行為ではありません。事実を早期に特定し、価格、条件、改善策に織り込むことで、取引の確実性を高める行為です。

オーナーが顧客継続を保証するよう求められても、顧客の意思決定を完全に支配することはできません。努力義務と結果保証を区別し、対象顧客、判定期間、継続の定義、売上減少の原因、譲受企業側のサービス変更、不可抗力を明確にします。単に「顧客が継続したら支払う」と書くのではなく、譲受企業が値上げや拠点統合を行った結果の解約をどう扱うかまで合意する必要があります。譲渡企業の責任範囲と譲受企業の運営裁量を均衡させることが重要です。

デューデリジェンスでは契約書と売上データを突合する

譲受企業のデューデリジェンスでは、契約書一覧と会計データを突合します。契約書はあるが売上がない顧客、売上があるが契約書がない顧客、契約名義と請求先が異なる顧客、契約期間終了後も取引が続く顧客、請求単価が契約書と異なる顧客が抽出されます。これらは必ずしも不正や重大違反を意味しませんが、説明と証拠がなければ、売上の継続性に割引がかかります。請求書、発注書、更新メール、議事録を紐付け、現在の取引条件を再構成できる状態にします。

顧客別売上は少なくとも月次で三年程度を用意し、粗利、案件数、処理量、単価、稼働人数、解約、追加受注を分析できる形にします。売上が増えていても、無償作業や残業、外注費の増加で粗利が低下していれば、譲受企業は契約条件の持続性を疑います。逆に、一時的に粗利が低くても、立上げ費用と定常運用を分けて説明できれば、正常収益力を示せます。契約台帳を数字と接続することで、法務論点が企業価値の説明資料に変わります。

資料はBPO会社の売却に向けたデータルーム整備の考え方に沿い、顧客別フォルダだけでなく、契約台帳から原本へ到達できる索引を作ります。個人情報や顧客機密は初期段階でマスキングし、譲受企業、開示時期、閲覧権限を管理します。重要資料のダウンロード制限や透かしも検討します。情報開示を絞りすぎると譲受企業は評価できず、広げすぎると秘密保持リスクが増えるため、交渉段階に応じた段階開示が必要です。

契約是正は売却直前ではなく、平時の更新交渉で進める

契約不備が見つかっても、M&Aを理由に急いで変更を求めると、顧客に売却検討を推測されるおそれがあります。まずは通常の契約更新、料金改定、SLA見直し、セキュリティ監査の機会を利用し、実運用と契約を一致させます。業務範囲、単価、再委託、データ保管、責任上限を一度に交渉すると顧客の負担が大きくなるため、重要度と更新時期に応じて是正計画を作ります。書面化できない場合も、現状、交渉履歴、代替策を記録しておきます。

自社に一方的に有利な条項へ変更することが目的ではありません。顧客が安心して業務を委託でき、BPO会社が適正な対価と管理可能な責任でサービスを継続できる均衡を目指します。たとえば、再委託を全面禁止する代わりに、再委託先の選定基準、監督、事故時責任、一覧提供を定める方が実務的な場合があります。損害賠償も無制限か免責かの二択ではなく、通常損害、特別損害、情報漏えい、故意・重過失を分けて協議できます。

契約書式を標準化し、営業担当が例外条項を受け入れる際の承認ルールを作ることも有効です。法務担当がいない中小BPO会社でも、標準契約、例外一覧、承認者、更新アラート、原本保存場所を決めれば、属人的管理を減らせます。譲受企業は完璧な契約書だけを評価するのではなく、新規契約と更新契約が適切に管理される仕組みを評価します。この管理体制は、売却後のPMIで譲受企業の契約管理へ統合する際にも役立ちます。

クロージング前後の移行計画で、顧客の不安を具体的に解消する

契約同意を得た後も、顧客対応は終わりません。クロージング日、対外発表日、担当者説明日、請求先変更日、振込口座変更日、システム切替日、問い合わせ窓口変更日を一つの移行表にまとめます。株式譲渡では請求主体が変わらないことも多い一方、会社名、役員、プライバシーポリシー、通知先が変わる場合があります。事業譲渡では請求主体、契約当事者、個人情報の管理者、従業員の所属が変わるため、誤請求や二重請求を防ぐ確認が必要です。

顧客ごとに、営業、業務責任者、品質責任者、情報システム、法務、譲受企業側責任者を割り当てます。説明後に寄せられた質問は共通FAQへ反映し、回答の不一致を防ぎます。よくある質問は、担当者が変わるか、料金が上がるか、データが別会社へ移るか、海外へ移転するか、再委託先が変わるか、障害時の連絡先は何か、現行SLAは守られるか、オーナーはいつまで残るか、などです。回答が未確定なら、決定予定日と責任者を伝えます。

クロージング後100日程度は、顧客継続を重要KPIとして管理します。問い合わせ件数、解約意向、利用量、SLA、苦情、担当者接触頻度、請求トラブルを週次で確認します。譲受企業が早期シナジーを求めてシステムや人員を急に変えると、契約上問題がなくても顧客体験が悪化します。まずは安定運用を確保し、その後に改善案を顧客へ説明する順序が基本です。顧客同意は署名を得る一回のイベントではなく、信頼を再構築する継続プロセスです。

譲渡企業オーナーが今から実行できる90日間の準備

最初の30日では、顧客契約、変更覚書、発注書、仕様書、SLA、セキュリティ資料、再委託契約を収集します。顧客別売上と粗利を紐付け、売上上位、粗利上位、個人情報、解約予告、支配権変更条項で優先順位を付けます。原本が見つからない契約や口頭合意を一覧化し、現場責任者へのヒアリングで実態を補います。この段階では、顧客へM&Aを伝えず、内部の事実確認に集中します。

次の30日では、専門家とともに重要契約をレビューし、取引スキーム別の承継要件を整理します。顧客同意が必要な契約、通知で足りる契約、解除権がある契約、解釈が不明確な契約に分類します。同時に、顧客満足度、直近の更新交渉、苦情、未解決課題、意思決定者、オーナー依存度を評価します。契約条項だけでなく、実際に同意を得られる確度を見積もることが重要です。

最後の30日では、是正優先順位、顧客コミュニケーション案、同意書・通知書のひな型、FAQ、移行計画を作ります。主要顧客が離脱した場合の損益感応度と代替策も用意します。すべてを90日で完了させる必要はありません。譲受企業へ「問題がない」と主張するより、論点を把握し、担当者と期限を置いて改善していることを示す方が信頼されます。早期準備は、価格交渉のためだけでなく、従業員と顧客を守りながら取引を完了させるための経営管理です。

譲受企業に伝わる契約承継説明資料は、リスクと打ち手をセットにする

譲受企業向け説明資料では、契約件数やチェンジオブコントロール条項の件数だけを示しても不十分です。売上構成、粗利、契約期間、解約予告、更新履歴、顧客満足度、切替コスト、競合状況を合わせ、なぜ顧客が継続すると考えるのかを説明します。リスクがある顧客については、同意取得の時期、説明者、想定質問、代替条件、離脱時の影響、補完案件まで示します。定量情報と現場の関係性を結び付けることが重要です。

譲受企業にとって望ましいのは、リスクが一切ない会社ではなく、リスクが可視化され、管理されている会社です。重要契約ごとに赤、黄、緑のような評価を付ける場合も、基準を明確にします。赤は同意必須かつ関係不安、黄は通知必要または条件調整中、緑は手続不要か同意見込みが高い、というように定義し、主観だけで判断しないようにします。評価の根拠資料と最終更新日を記載すれば、デューデリジェンス中の追加質問を減らせます。

BPO業界M&A総合センターでは、契約承継を単独の法務論点ではなく、企業価値評価、譲受企業選定、取引スキーム、顧客コミュニケーション、PMIに関わる経営課題として捉えます。譲受企業の業種や統合方針によって、顧客が抱く懸念も変わります。候補先の資本力だけでなく、情報管理、現場運営、顧客対応の文化まで見極めることが、継続率と売却後の評判を守ります。

契約承継の準備は、売却価格と取引の確実性を同時に守る

もう一つ忘れてはならないのが、従業員と顧客契約の接続です。BPO契約に特定の資格者、専任管理者、最低配置人数、研修受講、顧客による担当者承認が定められている場合、キーパーソンの退職は契約違反や品質低下に直結します。主要顧客ごとに、業務責任者、代替要員、必要資格、引継ぎ期間、顧客承認の要否を整理し、買収発表後の離職リスクを踏まえたリテンション策を検討します。雇用条件の変更を先走って約束するのではなく、守秘義務を保ちながら必要な時期に情報を共有できる計画を作ることが大切です。

また、M&A後に商号、銀行口座、請求書様式、適格請求書発行事業者の表示、電子契約の署名者などが変わると、顧客側の購買登録や支払承認に時間がかかることがあります。法的な契約承継が完了しても、顧客の社内手続が間に合わなければ入金遅延が起こります。主要顧客の購買部門、法務部門、情報システム部門が必要とする書類を事前に洗い出し、クロージング後の運転資金計画へ反映します。契約、現場、請求の三つが同時に切り替わって初めて、事業承継は実務上完了します。

BPO会社のM&Aでは、契約承継をクロージング直前の事務手続として扱うべきではありません。顧客契約は売上の根拠であり、情報管理義務、品質義務、再委託管理、損害賠償という責任の根拠でもあります。契約台帳を整え、実運用との差異を把握し、顧客同意の取得計画を作ることで、譲受企業は将来収益とリスクを具体的に評価できます。その結果、過度な価格控除、長期の留保、広すぎる補償条項を避けやすくなります。

譲渡企業オーナーが重視すべきなのは、顧客に事実を伝えるタイミングと、伝えた後もサービスを安定させる体制です。秘密保持を守りながら、主要顧客には十分な検討時間を確保し、譲受企業と共同で移行計画を提示します。現場責任者を早期に巻き込み、オーナー退任後も顧客関係が続く姿を見せます。契約と運用を同時に整える準備こそ、会社の信用を次の株主へ引き継ぐ作業です。

売却をまだ具体化していない段階でも、契約棚卸しには意味があります。更新漏れ、採算悪化、無制限責任、再委託違反、情報管理の不一致を早く発見できるため、平時の経営改善につながります。将来の選択肢を広げるためにも、まず主要顧客十社の契約と実運用を突合し、承継条件と解約リスクを確認してみてください。

確認結果は四半期ごとに更新し、新規契約や覚書が増えた際に台帳へ反映する運用を定着させましょう。継続的な契約管理は、突然の売却打診にも落ち着いて対応できる経営基盤になります。

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この記事を書いた人

株式会社M&A Do 代表取締役 濱田啓揮のアバター 株式会社M&A Do 代表取締役 濱田啓揮

東京都昭島市出身。慶應義塾大学理工学部を卒業後、大手M&A仲介会社にて勤務し、その後株式会社M&A Doを立ち上げ。工事業のM&Aを過去多数支援。

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適格請求書発行事業者番号
T8010001217238
設立年月日
2021年4月2日
代表取締役
濱田 啓揮
電話番号
03-4560-0084
資本金
1,000万円
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譲渡企業様からは相談料、着手金、中間金、月額費用、成約時の成功報酬までいただきません。大手他社で成功報酬2,500万円規模の最低報酬が設定されるケースと比較し、初期負担なく秘密保持前提で検討を始められます。

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運営会社

運営
株式会社M&A Do
本社所在地
〒107-0061 東京都港区北青山一丁目3番1号 アールキューブ青山3階
事務所所在地
〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅4丁目24−5 第2森ビル
受付時間
平日 10:00-17:00

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